メディア総合研究所  

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  2. メディアおよび文化の創造に携わる人々の労働を調査・研究し、それにふさわしい取材・創作・制作体制と職能的課題を考察し、提言する。
  3. シンポジウム等を開催し、研究内容の普及をはかるとともに、メディアおよび文化の研究と創造に携わる人々と視聴者・読者・市民との対話に努め、視聴者・メディア利用者組織の交流に協力する。
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声明・アピール

「放送法等の一部改正」法案に対するメディア総研の見解

2007年05月30日
メディア総合研究所

はじめに
 2007年4月6日、政府は「放送法等の一部改正法案」(以下「改正案」)を閣議決定し、国会に上程した。「改正案」は「通信・放送分野の改革を推進する」ことを目的として、NHK関係では「ガバナンスの強化」「新たな国際放送の制度化」など、民放関係では「認定放送持株会社制度の導入」「ワンセグ放送の独立利用の実現」「有料放送の料金に関する規制緩和」「再発防止計画の提出の求めに係る制度の導入」などを主な内容としている。
 私たちは、表現の自由を保障するための放送の自立という観点、また国民の共有財産である電波を利用する放送の公共性という観点から、この「改正案」は到底容認できないという結論に至った。私たちは、この「改正案」の廃案を求め、放送法制のあり方について根本的に議論しなおすことを強く求める。

1.「再発防止計画の提出」
 「改正案」では、現行法五三条の八に「二」を加えて、
 「総務大臣は、放送事業者(受託放送事業者を除く。)が、虚偽の説明により事実でない事項を事実であると誤解させるような放送であって、国民経済又は国民生活に悪影響を及ぼし、又は及ぼすおそれがあるものを行い、又は委託して行わせたと認めるときは、当該放送事業者に対し、期間を定めて、同様の放送の再発防止を図るための計画の策定及びその提出を求めることができる。
 2 総務大臣は、前項の計画を受理したときは、これを検討して意見を付し、公表するものとする」
との規定を新設している。これは、総務大臣が放送内容に対する判断を行って、それを根拠に放送局に対する行政処分を行うというもので、「事実とは何か」「悪影響とはどういう状態をさすか」などという、非常にデリケートで実証困難な問題について、ほとんど無限定の行政裁量を認める危険性をはらんでいる。また、放送局が提出した「再発防止計画」に対して総務大臣が意見を付した上で公表することは、放送番組の制作過程などに対して行政が関与できる根拠を与えることになりかねない。これは憲法二一条が明確に禁じている「検閲」に相当する行為であり、放送法が保障する番組編集の自由、放送の不偏不党にも抵触する重大な問題をはらんでいる。また、間違った内容を放送した放送局に適用される「訂正放送制度」との二重規制になるとも考えられ、放送への行政の過剰な介入を招くものとなる。この「再発防止計画」に関する条項は、丸ごと削除されるべきである。

2.「認定放送持株会社」
 「改正案」では、総務大臣が認定して、複数の地上放送局や衛星放送局を100%子会社として傘下に置くことができる「認定放送持株会社」制度の導入も盛り込まれている(第三章の四)。デジタル化対策などのために経営が苦しいローカル局などの救済策として放送業界からは期待されている新制度ではあるが、ここにも民主主義社会の健全な発展のために看過できない問題点が存在する。
 本来、放送局の経営に当たっては、総務省令「放送局開設の根本的基準」にある「マスメディア集中排除原則」を遵守することが求められている。度重なる見直しでほとんど「骨抜き」にされているとはいえ、特定資本による複数の放送局支配に一定の歯止めをかけるこの原則は、言論・表現の多様性・多元性・地域性の確保の面から決して軽視できない価値を有している。かつて複数の放送局を支配する政治家が首相に当選したイタリアなどの例を見るまでもなく、巨大メディア資本による放送界の寡占が民主主義社会に及ぼす弊害の大きさはすでに明らかであろう。
 ただでさえ自社制作率・編成率が低いと批判にさらされている日本のローカル放送が、この「放送持株会社」によって、さらに情報の東京一極集中・地方切り捨てを進行させることは間違いないであろう。放送局への出資制限はこれまで以上に厳格に運用されるべきであり、放送行政においても「地域主権」が明確に打ちだされるべきだと考える。

3.NHKガバナンスの強化
 「改定案」ではNHK改革の一環として、経営委員の一部常勤化、監査委員会の新設、などを柱としたNHK経営委員会の機能強化がうたわれている。しかし、こうした「改革」が本当に経営委員会の機能強化につながるのか、はなはだ疑問を感じざるを得ない。
 「改定案」では、「経営委員会は、前項に規定する権限の適正な行使に資するため、総務省令の定めるところにより、第三二条第一項の規定により協会とその放送の受信についての契約をしなければならないものの意見を聴取するものとする」(第一四条第二項)「委員長は、総務省令で定めるところにより、定期的に経営委員会を招集しなければならない」(第二二条二の二項)などと、詳細を「総務省令で定める」規定が数多く設けられている。これでは、経営委員会の独自性を発揮する余地はほとんど残されないのではないだろうか。この「改正案」はむしろ、総務省のNHKに対するガバナンスの強化をもくろんでいると指摘されても否定できないだろう。
 経営委員の一部を常勤化することは、「常勤委員と非常勤委員との間で情報量の面で格差が生じ、合議機関である経営委員会の独立性と多様性を損なうとの懸念も否定しきれない」との見解が経営委員より出されている。また、経営委員会の職務を法に列記すること(一四条一項の一のイ~ソ、二項)は、法律で経営委員会の権限に一定の枠をはめることになり、経営委員会の独立性を危うくするおそれがある。
 経営委員会の機能強化をはかるためには、独自の調査やそれにもとづく政策判断が可能となるように、事務局の人員・予算を充実させる必要がある。また、視聴者に開かれたNHKとするために、経営委員の選出過程の透明化や、経営委員会が直接視聴者の意見を聴取できるような機会が保障されることが望ましい。

4.NHKの国際放送
 「改定案」ではNHKが行っている国際放送を「邦人向け」と「外国人向け」とに区別したうえで、外国人向けのテレビ国際放送はNHKの子会社に委託することを規定(九条の二)し、一般放送事業者(民放など)にも協力を求めることができる(一〇条)としている。また、放送への介入として批判が強かった、総務大臣がNHKの国際放送の内容に「命令」できる制度は「要請」に抑えられることになっている。
 しかし、この「要請」はNHK側に応じる努力義務を課している(三三条の二)ので、実質的には「命令」と変わるところはない。また、民放にもこの「要請」放送に協力を求めることは、政府の海外宣伝にあらゆる放送メディアが利用されることになる。日本の放送が政府の国策宣伝の道具として諸外国に受け止められることは、「表現の自由について理解のない国」として日本の国際的信用を貶めることになり、その損失は計り知れない。
 そもそも、政府が放送機関に放送内容を指示して放送させることができるというこの制度自体に問題があるのは疑いない。文言を変える程度の姑息な修正ではなく、「命令放送制度」そのものの廃止に向けた検討が行われるべきである。

おわりに~放送法見直しのために国民的論議を
 以上のように、今回の「改正案」には重大な疑問点が数多く含まれており、私たちは改めて廃案を求めるが、現行の放送法もまた多くの問題を抱えていると考える。地上放送のデジタル化が進行し、インターネットが急激に普及している今日、技術革新に対応した法制度の整備は急務である。現行放送法は、いまだにNHKラジオしか放送局が存在しなかった時代の残滓を引きずっている部分があると言えよう。
 放送法制の根本的な見直しのためには、行政当局や放送・通信事業者の思惑などから距離を置いた、市民や有識者ら幅広い人選による独立委員会を組織して、そこを中心に徹底的な議論を行うことが望ましい。その際には、NHKや民放も、放送を通じてさまざまな情報・意見を視聴者に公表すべきであり、また同時に、視聴者・市民からの意見を広く紹介する機会も保障すべきだろう。そのように時間をかけた検討をベースに、放送法制の再構築が図られるべきである。
 また、この機会に放送業界が、番組制作のあり方や権力との距離のとり方などについて、自らの襟を正し、その姿勢を明らかにすることも肝要であろう。国民の共有財産である電波を特権的に利用できるNHKと民放はともに公共的な存在であり、その社会的責任は極めて大きいからである。