声明・アピール
政府のイラク「派兵」取材規制に抗議する
2004年02月4日
メディア総合研究所
メディア総合研究所
所長 須藤春夫
政府・防衛庁は、1月9日、陸上自衛隊の先遣隊および航空自衛隊本隊にイラクへの派遣命令を出すとともに、新聞・通信・放送の各報道機関の責任者に対して現地での取材や報道について自粛要請をした。自粛を求めた内容は部隊の派遣日程の事前報道、部隊の数、位置、他国軍等の情報から「その他、部隊等が定める事項」にいたるまで多様な項目にわたっている。さらに防衛庁は1月13日、同庁の副長官、官房長、陸海空の3幕僚長の定例記者会見を廃止する意向も示した。
これらの自粛要請項目は、アメリカ軍がイラク攻撃の際に部隊への同行を認めた「エンベッド取材」での報道自粛要綱などに準じたように見受けられるが、もともと今回の自衛隊派遣は、「非戦闘地域」に「人道復興支援」のために行うと政府は国民に説明している。このような要請や厳戒な取材規制は、まさに自衛隊が武力をもって「戦場」に赴くことを政府自らが認めていることを意味していると言える。
アメリカを中心としたイラク占領政策に協力して重装備の自衛隊を現地に派遣するのは事実上の「派兵」であり、日本国憲法が明確に禁じている「国際紛争の解決手段としての武力行使」にあたると言える。世論調査でも多くの人々はこの派遣に反対しており、また、アジア諸国では紛争地域に日本の自衛隊が初めて派遣されることに強い疑念を表明している事実がある。戦闘地域における自衛隊の活動は、たとえ「人道復興支援」であっても状況によっては自らが戦闘行為を引き起こす可能性をはらんでいるだけに、われわれはイラクにおける自衛隊の活動を知る権利がある。したがって、報道機関は、現地での自衛隊の活動をつぶさに取材し、報道する義務がある。それに対して、政府・防衛庁が現地での取材を自粛させて本庁でのブリーフィングやホームページによる情報提供だけで済ませようとするのは、かつての「大本営発表」と何ら変わるところがない。
さらに、「防衛庁の円滑な業務遂行を阻害すると認められる場合には、爾後の取材をお断りすることになります」などと取材拒否をちらつかせるのは、報道機関に対する恫喝以外の何ものでもなく、あまりにも時代錯誤といえよう。このような露骨な「報道管制」は、民主主義社会の根幹を揺るがすものとして、激しい怒りを禁じえない。
これまでも防衛庁は、自衛隊法改正で「防衛秘密」条項を創設したり、自衛隊員の死亡事故について日時・場所・状況・原因などの基本情報を発表しなかったりと、徹底した秘密主義を貫いてきた。また、ひそかに情報公開請求者のリストを作成して庁内で閲覧していたことが明らかになるなど、防衛庁の動向はすでに市民から疑いの目で見られても致し方のない状況にある。そのような防衛庁が一方的に提供する情報など、信頼に足るとは到底言えない。今回の要請は、まさに日本や世界の市民の目から真実を覆い隠すものである。
民主主義社会の基盤を形成する言論・報道の自由、政府の情報公開原則などを一切踏みにじる今回の自粛要請に、私たちは怒りを込めて抗議し、その撤回を強く求める。また、各報道機関は、今回の自粛要請を毅然として拒否し、報道機関としての社会的使命を全うすべく冷静に現地での自衛隊取材を敢行し、「知る権利」に応える報道活動に邁進することを強く希望する。
以 上