メディア総合研究所  

メディア総合研究所は次の3つの目的を掲げて活動していきます。

  1. マス・メディアをはじめとするコミュニケーション・メディアが人々の生活におよぼす社会的・文化的影響を研究し、その問題点と可能性を明らかにするとともに、メディアのあり方を考察し、提言する。
  2. メディアおよび文化の創造に携わる人々の労働を調査・研究し、それにふさわしい取材・創作・制作体制と職能的課題を考察し、提言する。
  3. シンポジウム等を開催し、研究内容の普及をはかるとともに、メディアおよび文化の研究と創造に携わる人々と視聴者・読者・市民との対話に努め、視聴者・メディア利用者組織の交流に協力する。
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声明・アピール

提言:フジテレビは第三者委員会の報告を踏まえて「人権と報道倫理を守る放送局」として再生すべきだ

2025年05月9日
メディア総合研究所

提言:フジテレビは第三者委員会の報告を踏まえて「人権と報道倫理を守る放送局」として再生すべきだ
2025年5月9日 メディア総合研究所

【報告書への評価】
 フジテレビとその親会社であるフジメディアホールディングスが設置した第三者委員会による調査報告が公表された。まず、約二か月という限られた時間の中で、詳細な聴き取り調査やアンケートなどを行って事実関係を徹底的に明らかにした第三者委員会の努力に敬意を表したい。中居正広氏の性暴力事件については、被害者との間で示談が成立して守秘義務条項が合意されているが、加害者・被害者双方の代理人弁護士と第三者委員会の弁護士が交渉して、守秘義務の範囲を明確化させた。また、性暴力事件への関与が疑われた番組プロデューサーらがやり取りした後に削除・消去したメールやLINEなどのメッセージを電子データの専門業者に依頼して復元するなど、考え得る限りの詳細な事実調査を行っていたことも、特筆に値する。
 報告書は全体として、フジテレビ経営陣のこれまでの態度を厳しく指弾した。性暴力事件という重大な人権侵害に対して適切な対応を取らなかったこと、その後、週刊誌報道が出て会社として対応を迫られるようになっても経営陣の危機意識が希薄だったことを強く批判している。昨年12月、週刊誌報道への対策を検討する社内チームが議論している最中、当時の港浩一社長はゴルフに出かけ、その後も飲食の会合に行くなどして議論に加わらなかったことまで、報告書には記載されている。 その一方で報告書は、被害者の女性や、会社との連絡役を担った管理職が孤立無援の状態に置かれていたことを描き出し、被害者側に寄り添う姿勢を一貫して示している。そして、国際的な基準も踏まえて、報告書全体として人権尊重の観点が貫かれていることも重要なポイントだ。これまで放送業界では、放送に間に合わせるという業務優先のあまり、働く人の人権が軽視される傾向が強く、現状でも改善はほとんどみられない。慢性化している長時間労働の問題はその典型であり、そのような放送業界全体に強く警鐘を鳴らす意味でも、この報告書は貴重な資料と言える。
 報告書でもう一つ重要だと思われるポイントは、社員らへの聴き取り調査によって、中居正広氏による性暴力事件にとどまらず、これまで明らかになっていなかった組織の問題を提示していることだ。具体的には役員の座にあった複数の人間のハラスメントを長年放置しており、フジテレビの社内に「ハラスメントが蔓延している」と、その企業体質を問題視している。さらに、フジテレビの役員・社員を対象にしたアンケート調査を二回実施して、埋もれている事実の発掘や、事件をめぐる社員らの心情も記載した。労働組合以外で、働く人にフォーカスした調査は、おそらく放送局では初めてのことだろう。第三者委員会が、放送業界で働く人の立場や見解を一つの重要な要素として位置付けている様子がうかがえる。フジテレビの労働組合の活動や民放労連の談話・声明などにも報告書で言及していることも、その一端と言える。
 一方で、報告書には限界もある。〈本調査報告書では正面から取り上げなかったものの、この業界には、力関係で劣後する制作会社、プロダクションなどの協力会社の役職員、タレントやフリーランス等に対する各種ハラスメントの問題も見受けられるところである〉との記載もあるが、番組制作会社、プロダクションなど協力会社にまつわる問題については調査が行き届かず、言及が少ない。放送産業における権力構造を考えるうえで、制作会社と放送局の関係は極めて重要な位置づけがあると考えられる。
 もう一点、人権の観点からの検証は仔細に行われているが、ジャーナリズムの観点から報道機関としてのフジテレビを検証することも、報告書では十分に行われていない。たとえば、2022年9月に行われた安倍晋三氏の「国葬」をめぐる問題について、報告書に〈CXのアナウンサーが国葬の司会を務めるなど報道の中立について疑義があるにもかかわらず…〉という記載があるが、それ以上の踏み込みはなかった。この点については、フジテレビ自身の自己検証が待たれる。
【フジテレビへの提言】
 報告書で示されたことなどを踏まえて、フジテレビの経営には、以下の各点を求めたい。
〇ハラスメント被害者の保護と加害者への適正な処分を
 報告書では、中居正広氏の性暴力事件を含め、事実上放置してきたハラスメントの事実がいくつか記載されている。フジテレビは、指摘された事実を早急に調査し、被害者を保護するとともに、調査結果に基づいて、ハラスメント加害者の処分などを行うことが必要だと考える。「オールドボーイズクラブ」の内輪の論理で穏便に事を済ませようとしてきたことが批判の対象になっていることを肝に銘じるべきだ。
〇検証番組で視聴者への説明責任を
 視聴者からの信頼を回復するためには、番組を通じて説明責任を果たすことが求められるのは言うまでもない。報告書の内容を紹介するだけではなく、報告書が指摘した事実に基づいて独自に取材し、報道番組として成立させることをめざしているという。第三者的な視点も取り入れながら、放送局の自律に基づいて検証番組を早急に放送すべきである。
〇報道機関としての自己検証の継続を
 報告書では触れられなかった問題は、放送局の責任で自己検証する必要がある。安倍晋三氏の「国葬」に際して、進行役をフジテレビのアナウンサーが務めたことについて、誰がどのように決定したのか、社内調査を行って明らかにすべきだ。権力を監視すべき報道機関であるはずなのに、国会審議もないまま決行された「国葬」に対して、何の批判もなく、その遂行に積極的に協力したとみられることは、視聴者に対する背信行為に当たるものだ。
〇役員選出には可能な限り透明性確保を
 いま、フジテレビをめぐっては、国内外の投資ファンドがフジメディアホールディングスの株を買い増しして、同局経営への発言力を強化している。しかし放送局は、私企業とはいえ、国民の共有財産である電波を優先的に利用し、報道活動などを行う公共的な存在である。その経営には公正さが要求されることから、役員選出をはじめ、経営に関する重要な事項について可能な限りの透明性が確保されるべきである。公共的な企業において、役員人事が少数者による密室の協議で決定されるようなことはあってはならないと考える。
〇対話を通じて「人権と報道倫理を守る放送局」に
 この間、フジテレビは積極的にステークホルダーミーティングを実施して、さまざまな声を経営に反映させる努力を続けているようにうかがえる。「女性役員3割」を求めるインターネット署名を受け取って、実際に3割以上を女性とする役員人事案を公表したのはその一例だ。今後も、フジテレビの番組などで働く社内外の人々のさまざまな声に真摯に耳を傾け、その声を会社経営や番組制作に生かすことを通じて、多様性のあるこの社会の構成員一人ひとりの人権と報道倫理を守る放送局をめざしてもらいたい。とくに、立場の弱い制作会社等のスタッフをはじめとするマイノリティの声や、今回の事件で動揺する地方局のメンバーの声を対等に聞く機会を継続的に設けることが必要だ。

以 上

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