声明・アピール
メディア総研声明 米軍関係事件の原則速やかな公表を求める
2024年08月23日
メディア総合研究所
メディア総合研究所
2023年のクリスマスイブ、沖縄県内で米軍嘉手納基地所属の空軍兵による少女暴行事件が起きた。空軍兵の男は24年3月27日にわいせつ目的誘拐と不同意性交の罪で起訴された。しかし、市民や自治体に知らされたのは6月25日。那覇地裁が初公判の日程を明らかにし、琉球朝日放送が報じるまで、首相官邸・外務省・検察・警察と米軍の間で情報が隠されていた。
米軍人・軍属による事件・事故について速やかに米側から日本側関係当局に伝え、地元社会に通報する経路を定めた1997年の日米合同委員会の合意を骨抜きにする運用だ。しかも、情報が隠されていた間、辺野古新基地建設を巡り知事の権限を奪う「代執行」や新基地建設が争点になった沖縄県議選、岸田文雄首相の国賓待遇での米国公式訪問、沖縄全戦没者追悼式への参列といった政治日程があった。空軍兵による事件を含めて、昨年以降に沖縄県内で起きた5件の米兵による性的暴行事件が報道発表されていない。「政治的思惑による情報隠蔽」が指摘され、捜査当局の公平性・中立性が疑われる事態になっている。
このような「情報隠し」は、米軍基地が集中する沖縄以外にも広がっている。米軍基地がある神奈川、山口、青森、長崎でも、性犯罪事件の報道機関への発表、地元自治体への通報がなかったことが報じられている。日米の軍事的な同盟関係が強化される一方で、全国的に米軍による性犯罪が市民に伏せられつつある状況だ。
捜査当局は、「プライバシー保護の観点」「二次被害防止」を理由にしているが、情報の公益性を無視した主張だ。事件の発生を把握できなければ、地域社会は再発防止の手立てを講じようがないからだ。また、長年性暴力被害の支援にあたってきた専門家からは、過剰な秘密主義によって、被害者側が周囲の支援を得られにくくなり、適切なケアや補償を受ける妨げになることが懸念されている。重大事件発生の公表と、被害者のプライバシー保護・二次被害防止を両立させることこそが本来目指すべき姿であり、公権力が独善的な対応に陥るのを防ぐためにはメディアによる報道・検証が欠かせない。
日本政府は7月5日、沖縄県内の自治体からの相次ぐ抗議を受け、捜査当局による事件処理の終了後に「例外なく(地方自治体に)情報伝達する」と新たな運用を示したが、1997年の日米合同委員会の合意に屋上屋を架しただけで実効性がない内容だ。むしろ、「情報の不適切な取り扱いが生じた場合は、情報伝達を取りやめざるを得ない」(林芳正官房長官)と条件をつけるなど問題が大きい。速やかな関係自治体への通知だけでなく報道機関への公表も原則にすべきだ。
同時にメディアにたずさわる人間には、人権感覚が求められる。
沖縄県内で2008年、米海兵隊員の男が少女に対して性的な暴行を加えた事件では、『週刊新潮』の被害者を貶める報道をきっかけに誹謗中傷が相次ぎ、被害者が告訴を取り下げた事例があった。同じ過ちを繰り返してはならない。被害者が安心して被害を訴え、救済される社会的環境をつくることを含め、メディアの責務を肝に銘じる必要がある。
以 上