声明・アピール
馳浩石川県知事の定例記者会見拒否問題についての見解
2023年12月1日
メディア総合研究所
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馳浩石川県知事の定例記者会見拒否問題についての見解
メディア総合研究所
馳浩石川県知事は今年3月、就任(2022年3月)以来続けてきた定例記者会見の開催を突然拒否し、知事の判断で随時に開く会見に切り替えたまま今日に至っている。馳知事をめぐっては、東京五輪・パラリンピックの招致時の「官房機密費使用」に関する発言・撤回という新たな問題も浮上している。
馳知事は定例会見拒否の理由を、記者クラブ加盟社である石川テレビ制作のドキュメンタリー映画「裸のムラ」において、知事自身や県職員の映像が許可なく使用されているのを問題視し、石川テレビ社長が定例会見に出席して肖像権に関する議論に応じるよう求めたが、石川テレビ側がそれを拒んでいるからだと説明している。定例会見を開かない原因は、石川テレビ側にあると言わんばかりの態度である。
しかし知事が問題視する事例は、石川テレビとの間で個別に議論すべき事柄であり、定例会見を拒否する理由にはならない。知事は記者会見の役割をはき違えているといえよう。知事の対応は、行政トップの権威に逆らう報道機関に圧力をかけ、メディアの萎縮をねらったものととらえざるを得ない。
知事が定例会見の拒否を表明して以降、県政記者クラブに加盟する有志の新聞・放送8社は、今年7月24日に知事宛に定例会見の開催を求める申入書を県に提出した。しかし県は、申入書に社名だけで個人名がないことを理由に受け取りを拒否する事態も生じている。個人名の記載を求めたことについて県の戦略広報課は、「各社の意向を聞き取るために必要だ」としている。申入文書に記載された以上の何を聞き出そうとするのか。それこそ個人を狙い撃ちにして本意を翻えさせようとする行為であり、行政権力によるメディアへの不当な介入にほかならない。
いま他の地方自治体でも、行政トップが記者会見で特定の報道機関を狙い撃ちして攻撃する事態が起こっている。安倍晋三政権以降、首相記者会見は主催者側の強引な進行により1社1問で再問いをしない方式が慣例化しており、記者会見が事実上、行政権力からの情報を上意下達で伝える場に変質している。このような動きが地方自治体の記者会見にも影響を与えているのではないか。
馳知事は、今年、県の広報を統括する広報戦略監のポストを新設して民間企業からスペシャリストを登用した。広報を戦略的に実施する新たな動きは、県民に県行政の方針への理解を効率的、効果的に促し周知し説得することに狙いがある。記者会見もその手段に組み込まれかねない。先に記した記者クラブ有志の申入書の受け取りを拒否したのは広報戦略監であり、定例会見拒否問題は県の戦略的な思惑の中で扱われているといえよう。ちなみに、全国の都道府県庁で広報を戦略的にとらえる独自の部局を配置しているのは東京都(政策企画局に戦略広報部)と大阪府(政策企画部に報道監)がある。馳知事は大都市並みの広報体制を整えて報道機関と県民に向き合おうとしている。
本来、記者会見は行政トップの政策に対する考え方や政治姿勢について記者が説明責任を求め、記者が掘り起こした課題や県民の意見を行政トップに問い質す権力監視の場である。
そのうえで会見の定例化が望ましいのは、知事は一定期日ごとに必ず記者の質問を受けなければならない立場に置かれ、記者は県民の知る権利を充足させるために知事と向き合うという、両者の緊張関係があるからである。記者は会見に向けた準備が計画的にできるうえ、質疑応答から得た結果やさらなる取材を加えた情報を県民に伝えることで、地域社会の民主主義を機能させる役割を担うのである。知事は会見に臨む記者の背後に県民の存在があることを忘れてはならない。
定例会見が拒否されたままで随時会見が常態化すれば、会見は知事の都合のよい情報伝達の広報手段となり、記者の追及を逃れるべく戦略的に使われかねない危険性をはらんでいる。記者会見本来の機能が不全となり、地域の民主主義は大きく毀損することになる。
馳知事は記者会見本来の役割を再認識し、公約に掲げた定例会見を早急に再開する責任がある。理不尽な拒否を続ければ、公約違反として県民から厳しい審判を受けることになるであろう。
知事の定例記者会見拒否に対して、県政記者クラブの対応にも問題がある。会見再開を求めた申し入れは、記者クラブ側で一致した行動が取れなかった。申し入れをしたのは有志8社にとどまり14社で構成される記者クラブの総意となっていない。有志の申し入れに対して県側が申入書の受け取りを拒否した背景には、記者クラブの不団結が見透かされたともいえる。記者クラブに加盟する各社は、立場の違いはあれ定例会見の再開を求める点では団結して行動するべきである。
新聞・放送・通信各社でつくる日本新聞協会は、「記者クラブは日常の取材活動の中で適切な会見設営に努力し、行政責任者などに疑問点、問題点を直接ただす機会の場をもっと積極的に活用して国民の知る権利に応えていくべきである。その際、当局側出席者、時期、場所、時間、回数など会見の運営に主導的にかかわり、情報公開を働きかける記者クラブの存在理由を具体的な形で内外に示す必要がある」とする編集委員会見解を示している。
報道各社ならびに記者は、県の広報戦略に絡め取られることなく、行政権力から独立し、市民の立場にたって権力の監視をめざす記者会見のあり方を共通認識として追求し、報道機関としての責務を全うされるよう切望する。
2023年11月30日
以上