声明・アピール
「表現の不自由展 東京2022」の開催にあたって
2022年04月1日
メディア総合研究所
メディア総合研究所
「表現の不自由展 東京2022」の開催にあたって
2022年4月1日
メディア総合研究所所長 谷岡理香
愛知県で3年前に開催された現代アートの国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」(あいトリ)の企画展「表現の不自由展・その後」で展示された作品の一部などを、東京でもようやく鑑賞できるようになった。「平和の少女像」など、話題になった16組の作家の作品に接することができる貴重な機会である。メディア総合研究所では、「あいトリ」で展示されるきっかけとなった「表現の不自由展 消されたものたち」(2015年)の実行委員会に運営委員も加わるなど後押ししてきた。
それだけに今回、くにたち市民芸術小ホール(東京都国立市、4月2日~5日)で開かれる「表現の不自由展 東京2022」を訪れる人々が平穏な環境のなかで作品に向き合い、その作品からの問いかけに深く思考できる4日間となることを心から望みたい。
「表現の不自由展」はそもそも論争的なテーマを取り上げているがゆえに、公共的な施設での展示が拒まれた作品ばかりを集めた展示会だ。自分と異なる意見を表現した作品の展示を快く思わない人たちがいることは想像できる。しかし、「表現の不自由展」をめぐっては、多くの犠牲者が出た京都アニメーション事件を彷彿させるような脅迫文が送り付けられ、会場予定の住宅地で街宣活動が行われた。さらに、開封すると爆竹が破裂するような音を出す細工をした郵便物が届いたりするなどの犯罪にまで発展した。このように反対の意思を暴力で示すことを私たちは深く憂えている。
その結果「あいトリ」(8月1日~10月14日)では開幕から3日間で中止となり(10月8日再開)、21年の「東京展」(6月25日~7月4日)は不開催となった。同年の「名古屋展(7月6日~11日)」は会場の管理者である名古屋市の判断によって2日間で閉幕となった。「かんさい展」(大阪市・7月16日~18日)も「安全確保が困難」との理由で会場の利用許可がいったん取り消され、裁判所が取り消しを認めない判決を出したことで全日程を全うできた。しかし、いずれの場合も主催者が身の危険にさらされつづけたことは残念という言葉では語れない深刻な問題である。今日の日本社会の不寛容性を現わしていると言えるであろう。
国際社会に目を向けると、ウクライナに武力侵攻したロシア国内では「戦争反対」と唱えただけで逮捕される言論弾圧の状況を私たちは目の当たりにしている。政府の方針と異なる意見表明の保障度は、民主主義社会の指標である。行政には、展示の自由を守る努力を怠らないでほしい。また、私たちもこの国が表現の多様性を認め合う社会であることを不自由展の安全な開催を通じて確認し合いたい。