メディア総合研究所  

メディア総合研究所は次の3つの目的を掲げて活動していきます。

  1. マス・メディアをはじめとするコミュニケーション・メディアが人々の生活におよぼす社会的・文化的影響を研究し、その問題点と可能性を明らかにするとともに、メディアのあり方を考察し、提言する。
  2. メディアおよび文化の創造に携わる人々の労働を調査・研究し、それにふさわしい取材・創作・制作体制と職能的課題を考察し、提言する。
  3. シンポジウム等を開催し、研究内容の普及をはかるとともに、メディアおよび文化の研究と創造に携わる人々と視聴者・読者・市民との対話に努め、視聴者・メディア利用者組織の交流に協力する。
Media Research Institute
研究員専用
  • 研究プロジェクトの状況
  • 運営委員会・研究会報告
  • ログイン
維持会員募集
研究所の目的に賛同し、活動を支えてくださる維持会員を募集しています。
維持会費は年間1口1万円。

●維持会員の特典
『放送レポート』(隔月・年6回)、『メディア関連資料』CD版(年2回)が届けられます。また、研究所が行う催しには無料、または割引で参加することができます。
メディア総研の案内パンフレットは下記からダウンロードできます。
メディア総合研究所
〒130-0026
東京都墨田区両国3-21-14
両国有泉ビル3階
Tel: 03-6666-9404
Fax: 03-6659-9673
mail@mediasoken.org
 
  • HOME 
  •  < 
  • 声明・アピール

声明・アピール

ETV改変事件をめぐるNHKへの政治介入に対する声明

2005年01月17日
メディア総合研究所

所長 須藤 春夫
 
 1月13日、NHK番組制作局の現職チーフ・プロデューサーが都内で記者会見し、2001年1月30日夜にNHKが放送した『ETV2001 シリーズ戦争をどう裁くか』第2回「問われる戦時性暴力」について、自民党の政治家らから圧力を受けて番組の内容が改変されていたことを明らかにした。番組は、アジア諸国と日本の市民団体が開催した民衆法廷「女性国際戦犯法廷」を取材したもので、天皇の戦争責任問題などをめぐって放送前から、右翼団体などから放送中止の圧力をかけられていた事実があった。
 記者会見での説明によると、2001年1月下旬、自民党衆議院議員の中川昭一・経済産業相と、当時は内閣官房副長官の職にあった安倍晋三・自民党幹事長代理らが、NHK総合企画室の野島直樹担当局長(当時)らを呼び出して、同番組の放送を中止することを求めた。野島担当局長は松尾武放送総局長(当時)を伴って同月29日、中川・安倍両氏を議員会館に訪ねて説明を重ねたが理解を得られず、番組の主要部分のカットを含む内容変更を制作現場に指示した。さらに、松尾放送総局長は番組放送当日の1月30日にも再編集を現場に指示し、戦犯法廷に立った元従軍慰安婦らの証言をカットさせて放送した。
 番組を担当したチーフ・プロデューサーは、NHKが新たに設けた「コンプライアンス(法令遵守)通報制度」に基づいて昨年12月に通報を行い、これらの事実についての調査を求めた。しかし、通報後1ヶ月を過ぎてもなんら調査の進展が見られないことから、記者会見による公表に踏み切ったと説明した。
 中川・安倍両氏は朝日新聞の取材に対し、番組の放送前にNHK幹部と面会して意見を述べたことを認めたが、中川氏はその後、前言を翻して放送前のNHK幹部との接触を否定、安倍氏は放送前の接触を認めながらも「番組内容に注文をつけた事実はない」と説明している。
 放送法3条は「放送番組は、法律の定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」と、放送番組編集の自由を保障している。放送局の幹部に対して、放送番組について注文をつけた安倍・中川両氏の行為は明確な放送法違反であり、憲法が禁止する検閲そのものだといえる。国会議員が報道機関に何らかの要請を行ったり意見を述べたりすることは、いくら「注文をつけていない」と主張しようとも、受け取る側にとっては政治的圧力以外のなにものでもない。中川・安倍両氏の行動は憲法21条が保障する表現の自由に対する重大な侵害行為であり、憲法・国家公務員法が定める憲法遵守義務違反の疑いがある。2人の行為については、公的な場で詳しい事実の究明がなされたうえ、その責任が追及されるべきである。
 一方、政治的圧力に屈して番組改変を行ったNHKも、視聴者に対して重大な背信行為を行ったと言わざるを得ない。記者会見でチーフ・プロデューサーは、海老沢会長も事件の一部始終を了解していたはずであることを強く主張しており、会長をはじめとする当時の経営幹部すべてが責任を問われるべきである。また、番組改変をめぐって法廷の主催団体がNHKなどを訴えた裁判の審理で、NHK幹部は「外部からの圧力で改変したわけではない」との証言に終始していたが、以上で明らかになった事実からすれば偽証の疑いが強いことになり、NHKは司法軽視という法的・社会的責任も問われることになろう。
 チーフ・プロデューサーの告発を受けたNHKは1月13日、「政治的圧力を受けて番組の内容が変更された事実はありません」などとする「関根放送総局長の見解」を公表した。そして、政治介入について最初に報じた朝日新聞に対し「事実を歪曲している」などと抗議し、謝罪と釈明、訂正記事の掲載を求めている。
 しかし、NHKの抗議文にはその主張を裏付ける証拠が具体的に示されているわけではなく、朝日新聞やチーフ・プロデューサーの主張と比較しても信頼性が低いと言わざるを得ない。そもそも、国会議員の事務所を訪ねて予算や事業計画の事前説明を行い、そのなかで放送前にもかかわらず個別の番組の内容について説明すること自体、放送に対する政治的介入を自ら招く行為だと指弾されても仕方のない行動ではなかろうか。
 また、問題の番組は、スタジオ出演者の発言の趣旨がよく理解できないような編集が施されていたり、番組の長さが通常より4分短くなっていたなど、放送当時から不自然な点が指摘されている。NHKは「報道が事実と違う」と主張するのであれば、これら番組そのものへの疑問についても、視聴者に対して真摯な態度で詳しい説明を行うべきである。
 内部告発の後、記者会見まで行って事件の真相を公表しようとしたチーフ・プロデューサーの決断に対し、私たちは最大限の敬意を表したい。NHKの現場で働く番組制作者には高い倫理観を持ったジャーナリストがまだ存在していることが証明されたと言えよう。それにしても、良心的な一番組制作者をここまで追い込んだNHKの組織としての責任は重大なものがある。また、受信料をめぐる数々の不祥事を受けて昨年秋に新設された「NHKコンプライアンス通報制度」が、経営幹部の不正行為についてはまったく機能していないことも明らかにされ、もはや現在のNHKには自浄能力も期待できないのではないかという疑念を抱かざるを得ない。NHKに対して私たちは、コンプライアンス推進室における調査の進捗状況を明らかにすると同時に、チーフ・プロデューサーの主張とNHKの説明が事実関係において大きく食い違っていることから、真相究明のために外部の第三者による調査委員会を設置し、そこで詳細な調査を行って結果を公表することを強く求める。
 NHKが真の公共放送として再生し、視聴者の信頼を回復するためには、経営陣の刷新をはじめとして抜本的な改革を断行しなければならないことは明らかである。その改革に際しては、内外に広く意見を求め、心ある視聴者・市民の協力を得た公開性の高いものでなければ覚束ないものと知るべきである。
 
以 上