声明・アピール
個人情報保護法案・委員会採決に抗議するメディア総合研究所長談話
2003年04月25日
メディア総合研究所
メディア総合研究所
所長 須藤 春夫
本日、衆議院「個人情報の保護に関する特別委員会」で、政府案と野党案の二つの個人情報保護関連法案が採決にかけられ、政府案が賛成多数で可決された。また、付帯決議として3年後に法律を見直すこと、個別法の制定の必要性などが採択されている。報道によると、来月6日には衆議院本会議を通過する見通しだという。
2001年3月の国会上程以来しばらくたな晒しにされ、一度は廃案となった法案が、わずかな修正を施されただけで、特別委員会設置以来たった40時間の審議で採決されるという拙速さに、憤りを禁じえない。その審議内容も、新たに法律で「報道」を定義するという問題や、カーナビゲーションシステムへの法適用など市民の生活に深く関わるような重大な問題について、政府の答弁は言を左右にしていただけで、本質的な議論には一歩も踏み込まなかった。新たに発覚した防衛庁の適齢者情報収集問題にみられるように、行政機関の個人情報保護法案は行政を厳しく規制するどころか,むしろ行政・官僚の思うままに個人情報を取り扱えるような内容となっている。このような深刻な問題をはらむ法案の審議を急がなければならない理由は見当たらない。
今回の委員会審議では、野党4党が共同提出した法案が、政府案に対する本質的な批判になっておらず、かえって審議の進行を早めた感は否めない。また、昨年とは打って変わって冷淡な報道に終始し、法案の抱える問題を市民に十分知らせなかった多くのマスメディアにも、猛省を求めたい。
わたしたちはこの法案について、包括規制ではなく個別分野ごとの規制をもって臨むこと、行政には民間より格段に厳しい規制を行うことを柱に、法案の抜本的見直しを求めてきた。多くの法律家、作家、ジャーナリストなどからも同じように法案に対する強い疑念と反対の意見表明が出されており、市民の間でも、法案の問題点やあるべき規制の姿などをめぐって認識が深まりつつある。このような状況にあるにもかかわらず、委員会において十分な議論がないままに政府案が可決され、「数の力」で法案成立へのお膳立てを整えようとする姿勢は民主主義に対する暴挙であり、強く抗議するものである。
わたしたちが繰り返し指摘しているように、法案は表現の自由や個人の人権が脅かされかねない多くの問題をはらんでいる。計11項目もの付帯決議も、法案として不十分なままに見切り発車したことを自ら示すものにほかならない。今後の国会審議においては、これらの点を踏まえ、与野党双方ともに原点から議論をやり直すことを強く求めるものである。
以 上