声明・アピール
個人情報保護法案の審議入りに抗議し、抜本的な出直しを与野党に求める緊急アピール
2003年04月8日
メディア総合研究所
メディア総合研究所
所長 須藤春夫
個人情報保護の旧法案は、2001年3月の上程以来昨年の臨時国会まで、関連五法案が一括して内閣委員会に審議が付託されてきた。廃案・再提出という手続きを取ったとはいえ、基本的な構造がほとんど変わらない新法案を、特別委員会で審議しなければならない理由は見当たらない。政府・与党が、自民党から委員長を出したこの委員会なら意のままに審議を進めることができると考えたのであれば、それは民主主義を蹂躙するものであり、断じて許されるものではない。私たちは、今回このような形で法案審議が始まることに強く抗議する。
私たちは、2月26日に発表した見解で、政府が再提出した「修正法案」について、①民間を対象にした法制については一律規制でなく限定的な個別規制が望ましい、②行政機関を対象にした法制についてはもっと規制を強化すべきと考え、法案は到底受け入れられないという立場を表明した。包括的な法規制では、個人の自由な表現・コミュニケーション活動に対しても国家が監視・介入できる仕組みを用意し、息苦しい社会を招くことになると懸念するからである。
「修正法案」は、表現の自由への配慮の点で一定改善された部分も含んではいるものの、行政の恣意的な判断の余地が残されているほか、法律で「報道」を定義するなど、新たな問題点も内包している。行政機関の「修正法案」については限定的な罰則の導入にとどまっており、「市民による自己情報コントロール」「個人情報の適正取得」「思想・信条等に関するセンシティブ情報の収集禁止」などを含まない、非常に緩やかなものにしかなっていない。
一方、4月3日に四野党が共同提出した「野党案」も、一層の改善は見られるものの、重大な問題点を残している。
「野党案」では、民間規制においても、行政機関の規制においても、「自己情報コントロール権」の規定を導入するとともに、センシティブ情報につき本人の同意のない取り扱いを原則的に禁止している。また、民間規制については主務大臣に代わって新設する独立的な機関である「個人情報保護委員会」が関与することとし、義務規定については「不特定かつ多数の者に対して、情報を発表し、または伝達する活動の用に供する目的」も含め、報道目的や著述目的などの場合の適用除外を定め、除外の範囲をやや広げている。
この「野党案」は、①政府案と同じく包括法としての一律規制になっていること、②民間と行政とが同じウエイトで規制されていることから、私たちはやはり受け入れがたいものと考える。
民間規制については、事情の違う分野ごとの検討が不可欠であり、一律規制は個人の自由な活動を妨げる可能性が強い。自己情報コントロール権の規定は、何よりも「行政に対する市民の権利」として明確に位置付けるべきである。また、センシティブ情報の取り扱いについて例外が広く許容されているが、行政機関に対してはその余地を厳格に絞るなど禁止原則を徹底すべきである。新たに設けられている、行政機関に対する「データ・マッチング」の規制規定も、配慮義務にとどまっているためにその実効性に疑問をもたざるを得ない。
法案上程以来、四野党が一致して政府案に反対してきたことは評価するが、出された「野党案」を見る限りでは、これまで市民・関係団体と意見交換してきた成果が十分反映しているものとは言いがたい。私たちは、与野党とも現在の案を撤回し、個別的規制(ポジティブリスト方式を含む)と独立的機関による規制を柱として、抜本的出直しを図ることを求める。
これまでの議論を経て、さまざまな市民の間で、法案の問題点やあるべき規制の姿などをめぐり認識が深まりつつある。ここで拙速に結論を急ぐべきではない。十分な審議時間を確保して、国民にわかりやすい形で議論を進めることを強く要望する。
以 上
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