声明・アピール
表現・メディア規制法案の修正提案に反対し、あくまでも廃案を求めるとともに、行政機関個人情報保護法案の抜本的見直しを要求するアピール
2002年09月28日
メディア総合研究所
メディア総合研究所
所長 須藤春夫
先の国会で個人情報保護法案と人権擁護法案は審議入りしたものの、ジャーナリズムをはじめとする世論からの批判もあり、可決に至らず、継続審議になった。これを受け、法案に一定の修正を施すことによって批判をかわし、法案の成立を図ろうとする動きが、公明党を中心に与党三党により進められつつある。これまでの報道などによると、その方向は、人権擁護法案については、報道規制条項の施行を当分の間凍結することとし、個人情報保護法案については、①基本原則にも表現の自由等への配慮規定を盛り込む、②義務規定につき、その適用除外の対象を「文学」分野にも拡大するとともに、報道目的での情報提供者への適用除外を明記する、③行政機関にも罰則を加えるよう行政機関個人情報保護法案を修正する、というものである。
このような与党による法案修正は、先に示された読売新聞社の修正提案と同様、法案の基本的な枠組みを踏襲するものであり、法案が抱える本質的、構造的な問題点を何ら克服する提案とはなっていない。すなわち、市民の表現やコミュニケーション、メディアの取材や報道に行政機関など国家が広く介入し、強く規制を加えるという、表現の自由の侵害的なその性格を徹底的に取り去るものではないし、本来その手足を縛り、コントロールしなければならない権力への規制が弱く、逆に官が強大な権限を委ねられ、市民や社会を厳しく取り締まるという、本末を転倒した欠陥を抜本的に改めるものともとうてい言い難い。
法案の枠内でのこのような部分的な修正では、法案がはらむ重大な欠陥は治癒不可能である。廃案にして、一から出直すしか選択の余地はない。にもかかわらず、修正で事を済まし法案の成立を図るのは、姑息で危険な態度と言わなければならない。私たちは、こうした法案修正の動きに反対し、あくまでも両法案の廃案を強く求める。
8月5日、住民基本台帳ネットワークが稼動を始めた。この住基ネットは、個人情報保護法制の整備を求めた法の規定や当時の首相答弁にもかかわらず、先の国会でも個人情報保護に関わる二つの政府提案(主として民間を対象とする個人情報保護法案と、88年の法律を全面改正する行政機関個人情報保護法案)が成立しないまま、いわば見切り発車的にスタートせざるを得なかった。
この個人情報保護法制の未整備を主な理由として、杉並区などいくつかの自治体はネットワークから離脱し、横浜市は参加を個々の市民の選択に委ねる方式を採用した。住民の個人情報保護に責任を負っている自治体としては当然の対応である。しかしながら、このことが、重大な問題を内包する政府の個人情報保護法案の成立を促進するキャンペーンとして援用されてはならない。
住基ネットとの関係で求められている個人情報保護法制とは、何よりも、改正住基法の一般法としての行政機関個人情報保護法案である。民間を主対象とする個人情報保護法案はこれと直接の関係はもたないので、住基ネットを持ち出してこの法案成立の必要を説くのは正しくない。また、求められるべき個人情報保護法制とは、個人のプライバシーと個人情報をきちんと保護できる仕組みを備えた本来の保護法制であって、政府提案の法案のように、諸々の重大な問題を抱えた欠陥法案では断じてない。
この住基ネットとの関係も含めて、個人情報保護の点でいま何よりも必要なのは、防衛庁リスト問題が明らかにしたように、膨大で重要な個人情報を保有・利用している行政機関が権限を乱用して市民のプライバシーを侵害などしないよう、それを厳格に規制し、市民が自己の情報を真にコントロールできる仕組みを備えることである。
ここから、私たちは、民間に比べても規制が甘い行政機関個人情報保護法案は根本から見直す必要がある、と考える。すなわち、法案では、「相当の関連性」があれば利用目的の変更が広く認められ、また「相当の理由」があれば目的外の利用と提供も広範に許容されているが、利用目的の変更や目的外の利用・提供の禁止原則を徹底し、その例外は厳格に限定されなければならない。法案は、本人情報の開示・訂正等の権利が及ばない例外を広範囲に列挙しているが、自己情報のコントロール権の核心をなす請求権をこのように安易に制限してはならない。さらに、民間にさえ課されようとしているのに法案にはない適正取得のルールや規律違反への罰則を官に対して用意するのは当然であるし、同じく法案が定めを置かない、思想・信条等に関わるセンシティブ情報の収集禁止義務も加えられるべきである。
私たちは、以上のように行政機関への規制を強化する方向で、行政機関個人情報保護法案を抜本的に改めることを強く求める。