声明・アピール
読売新聞の修正案に反対し、個人情報保護・人権擁護両法案の廃案を求めるアピール発表
2002年05月21日
メディア総合研究所
メディア総合研究所
所長 須藤春夫
個人情報保護法案と人権擁護法案が国会で本格審議に入ろうとしている矢先の5月12日、読売新聞社は両法案の修正を求める試案を同日付朝刊で大きく伝えた。
修正案の内容は、以下のようなものである。個人情報保護法案については、?基本原則の一つである「透明性の確保」を報道分野への適用から除外する、?表現の自由等への配慮義務の文言を、表現の自由等を「妨げることがないよう配慮しなければならない」から、「妨げてはならない」へと改める。
人権擁護法案については、?取材による人権侵害の具体的方法を列記した部分を削除し、救済対象を「取材を逸脱した著しく不当な言動を行い」生活の平穏を著しく害する場合と定める、?人権委員会の配慮義務につき、報道の自由等の「保障に十分配慮する」との法案の文言を、「妨げてはならない」へと改める、?人権委員会の措置に対する不服申し立て制度を設ける、?法案では法務省の外局とされた人権委員会を内閣府の内部機関と改める。
私たちは、この修正案に対し根本的に異議を表明する。まず何よりも、今回の提言は法案の枠組みを変えないままに、ほんの部分的手直しを施すものに過ぎず、二法案が抱える本質的な問題点を何ら克服・改善する修正ではない。両法案は、4月24日の日本新聞協会の緊急声明も指摘しているように、取材・報道の活動を主務大臣や行政委員会の規制の下に置いている点に本質的な問題があるにもかかわらず、読売修正案はその肝心な点に切り込み、断念を迫るものではない。
個人情報保護法案の基本5原則は、全体として取材・報道の自由を不当に制約するおそれをもつ。したがって透明性の確保を除外しても何ら危険性は変らない。
人権委員会を内閣府の内部機関とする提案は、政府案よりも独立性を後退させ、取材による人権侵害の新たな規定は、「逸脱」か否かを行政機関が恣意的に判断する仕組みとなるなど、提言には法案の改悪をもたらす修正さえ含まれている。
また、今回の読売修正案は、自らが属する報道機関に関係した箇所だけに視野が限られている。広く市民の表現の自由の観点に立ち、さらには個人情報保護や人権救済の全体的な枠組みに即して、両法案の問題点を抉り出し、その改善を提起するという視点も欠落している。また、読売新聞社社長が会長を務める日本新聞協会の方針から大きく逸脱し、信義にもとると言わざるをえない。
今回の読売修正案は、広がりつつある法案への反対に水をさし、メディアや野党の取り組みを分断することが危惧される。これに呼応して小泉首相が政府・自民党にその検討を指示したことからも明らかなように、わずかな手直しで法案成立に手を差し伸べるものである。また、報道機関としての利害に固執し、このように政府に迎合する修正案を提示する姿勢は、市民の権利への視点を欠き、世論のメディア不信を深める。
私たちは、このように有害な修正案を断じて認めることはできない。すべてのメディア関係者、表現者、市民は、読売修正案の危険な試みを克服して、両法案の廃案に向け力を合わせよう。