声明・アピール
視聴者無視のアナログ放送2011年打ち切りに反対する
―電波法改正に対するメディア総研の見解
2001年03月21日
メディア総合研究所
メディア総合研究所
所長 須藤春夫
またも視聴者不在の放送行政が推し進められようとしています。政府は2月9日、現在私たちが享受している現行のアナログ放送を2011年に打ち切り、すべての地上波テレビ放送をデジタルに切り替えることを意図した電波法の改正案を国会に提出しました。この改正案が成立すると、私たちの多くがいま所有しているアナログ対応の受信機は、2011年で無用の長物と化すことになります。視聴者として、こうした政府案を座視できるものではありません。
放送事業者である民間放送各社やNHKは、この改定方針に対し表立って反対を表明していません。これでは、放送業界と政府および行政当局である総務省とのあいだで、すでに「合意」があると疑わざるをえません。放送業界も、こうした視聴者不在の行政を黙認し、結果として甘受していると、私たちは指摘せざるをえません。
地上波テレビ放送のデジタルへの移行措置については、従来、次のように位置付けられていました。
郵政省(現・総務省)におかれた「地上デジタル放送懇談会」の報告書において、アナログ放送の終了目標は2010年とされ、その終了にあたっては、?当該放送対象地域のデジタル対応受像機(アダプター、ケーブルテレビ等による視聴を含む)の世帯普及率が85%以上であること、?現行のアナログ放送と同一放送対象地域をデジタル放送で原則100%カバーしていること――の二つの条件をクリアーすることが必要とされていました。
しかし、今回の改正案は、アナログ周波数の使用期限を「デジタルテレビ放送のチャンネルプラン(周波数の割り当て)公示後、最大10年間」と規定しており、ことしの夏にチャンネルプランを公示して2011年夏にアナログテレビ放送をすべて終了することが明らかにされています。見直しの条件もつけず、2011年に問答無用とばかりにアナログテレビをすべて終了する。これが法改正の眼目です。
そのために、2006年までに全国の地上波テレビ放送局でデジタル放送を開始するとしていますが、その日程で問題なく進むかどうかは、技術的側面からも地方局の経営的側面からも、極めて疑問です。そのうえ視聴者には、高価なデジタル放送対応受信機の買い替えかアダプターの購入を求めているのですから、新たな負担を課すことになります。
現にアメリカでは、1999年初頭から大都市を皮切りにデジタルテレビ放送を開始していますが、デジタルテレビ対応受像機の普及は遅々として進んでいません。またデジタルテレビ放送への社会的期待も大きくなってはいません。国際的流れであるからデジタル化は急務であるとして、市民の重い負担に目をつむってことをすすめるならば、デジタル化に対応できない経済的弱者を切り捨てることにつながります。また、放送事業者が急激なデジタル化による経費負担に追われるあまり、肝心のテレビ番組の経費を抑え、番組の質を低下させる恐れもあります。これも視聴者の望むところではありません。
このように、今回の電波法改正案には、私たち視聴者の利益を大きく損なう恐れのある問題点が数多く含まれています。それだけに、こうした問題点をまず視聴者・市民に明らかにし、社会的論議をおこなって合意形成を図ることが何よりも求められているといえます。そうした努力を全くせずに法改正を急ぐことは、視聴者・市民の利益を切り捨てることであり、私たちはこれを容認することはできません。
以上