声明・アピール
表現の自由を脅かす「青少年有害環境対策基本法案(素案)」に反対する緊急アピール
2000年06月8日
メディア総合研究所
メディア総合研究所
「青少年有害環境対策基本法案」が議員立法として国会への提出が準備されていることに対し、青木貞伸(メディア総研所長)、奥平康弘(東京大学名誉教授)、桂敬一(東京情報大学教授)、清水英夫(青山学院大学名誉教授)、田島泰彦(上智大学教授)、原寿雄(ジャーナリスト)、渡邊眞次(弁護士)の7人が、この法案には「表現の自由の根幹を脅かす重大な内容」が含まれているとして、同法案に反対する『緊急アピール』をまとめ、法・メディア・教育の研究者、ジャーナリスト、メディア関係者、弁護士、市民グループなどに賛同を呼びかけました。
表現の自由を脅かす「青少年有害環境対策基本法案(素案)」に反対する緊急アピール
参議院の自民党は、5月11日、青少年の健全育成を目的とした「青少年有害環境対策基本法案(素案)」を取りまとめ、議員立法として国会へ提出しようとしている。この法案(素案)は、先に(4月21日)「青少年有害環境対策法案(素案骨子)」として成案化されたものに一定の修正を施したものであるが、表現の自由の根幹を脅かす重大な内容を含んでいる。
法案は、「近年の我が国社会における急激な情報化の進展、過度の商業的風潮のまん延等により、青少年有害環境のもたらす弊害が深刻化し、かつ増大している」などとして(第一3)、有害環境からの青少年の保護を図る諸施策(青少年有害環境対策)を提案している。ここで保護の対象となっている「青少年」とは18歳未満の者であり、対策が講じられる青少年有害環境とは、「青少年の性若しくは暴力に関する価値観の形成に悪影響を及ぼし、又は性的な逸脱行為、暴力的な逸脱行為若しくは残虐な行為を誘発し、若しくは助長する等青少年の健全な育成を阻害するおそれのある社会環境」とされる(第一2)。 法案はまず、国、地方公共団体、保護者、国民にそれぞれ青少年有害環境から青少年を保護する責務を課しているが、事業者も「その提供する商品又は役務について、青少年の健全な育成を妨げることがないよう配慮する等必要な措置を自主的に講じるとともに、国及び地方公共団体が実施する青少年有害環境対策に協力する責務」があるとされている(第一4)。
これを踏まえて法案が定める有害環境対策措置とは、具体的には概略次のようなものである。
(1)青少年有害環境からの青少年の保護に関する「基本方針」の策定。これは、内閣総理大臣が案を作成し、閣議決定が求められる(第二)。
(2)強調月間の設定、行政によるボランティア活動への支援や、取組への財政措置などを含む、国等の関係機関と国民各層の協力・連携の下に推進される「国民的な広がりをもった一体的な」青少年有害環境対策の取組(第三)。
(3)事業者等による青少年有害環境の適正化。ここでは、事業者・事業者団体に対し、その商品・役務の提供に関し、「青少年の心身の発達の程度に応じた供給方法その他の青少年の健全な育成を阻害」しないために遵守すべき基準についての協定・規約の締結・設定に努めること、および協定・規約を総務庁長官又は知事に届け出ることを求めるとともに、その要旨が総務庁長官等により公表されることが定められている。また、総務庁長官等が事業者等に対し、青少年有害環境からの青少年の保護のため、事業者の供給する商品・役務の供給方法等について必要な指導・助言を行う権限も付与している(第四1?3)。
(4)総務庁長官・知事による勧告・公表。ここでは、総務庁長官・知事は、供給する商品・役務が次の???のいずれかに該当すると認めるときは、事業者等に対し、「その供給方法等について必要な措置をとるべきことを勧告することができ」、「正当な理由なくこれに従わないときは、その旨を公表できる」とされる。?「青少年の性的な感情を著しく刺激し、又は性的な逸脱行為を誘発し、若しくは助長するおそれがある場合」、?「青少年に粗暴又は残虐な性向を植え付け、又は暴力的な逸脱行為若しくは残虐な行為を誘発し、若しくは助長するおそれがある場合」、?「その他青少年の不良行為を誘発し、又は助長する等の青少年の健全な育成を著しく阻害するおそれがある場合」(第四4)。
(5)青少年有害環境に関する苦情の処理や青少年の健全育成を阻害するおそれのある商品・役務の供給状況等についての調査などを含む有害環境対策に関する事業を行う「青少年有害環境対策センター」の設置。これは、申し出た公益法人の中から総務庁長官が全国で一つを指定して決められる(第五)。
(6)その他、?国と地方公共団体との連携協力と、?法律実施に必要な事項の「政令」への委任(第六)。
私たちは、青少年の保護・育成の問題がマスメディアを含め私たちの社会の重要な課題であると認識しているが、上記のような法案提出の動きには重大な懸念を表明せざるをえない。
まずはじめに、私たちは今回の法案提示の仕方そのものに疑義を呈しておきたい。「有害環境」からの青少年保護の問題は、表現の自由や報道の自由という憲法上の権利に関わる重要テーマである。このことを考えると、強力な規制措置を含む法案を、十分な社会的議論もせずに、いきなり国会への上程を図る今回の乱暴なやり方は、きわめて不適切である。メディアや市民団体を含む各層の間で議論を尽くし、合意形成に努めることが肝要であり、数の力で法案成立を強行するなどということがあってはならないと私たちは考える。
内容の点でも、法案にはあまりにも多くの問題があると言わなければならない。法案は、言論や出版などの表現活動にとどまらず、「青少年有害環境」という広範な概念を設定し、青少年に影響を及ぼす商品や役務の提供など人々の諸活動に広く規制の網をかけようとするもので、価値観や道徳を含む市民生活全般への国家の過剰な介入を容認し、自由な市民の活動を不当に制限する危険がある。なかでも、最も深刻なのは、青少年保護を名目に、表現・報道の自由や情報受領の自由への公権力の過剰な規制・介入が図られていることである。このことは、法案の次のような点に窺える。
第一に、この分野では、従来も青少年条例などにより一定の規制が加えられてきたが、今回はこうした地方レベルの規制を法律の制定により一気に国次元の規制へと押し上げ、国家の表現規制を拡大したことである。また、新立法は多種多様な各地の青少年条例に統一的な指針を提供する「基本法」の役割を担うことにもなろう。
次に、規制対象の拡大である。この点では、青少年条例でカバーされていない放送メディアやインターネットも含む供給される一切の「商品・役務」に規制が広げられるとともに、規制される行為が青少年への販売・頒布などの限定を受けていないため、規制のいかんによっては、青少年だけでなく成年者の情報受領の自由にも規制が及ぶ危険があることである。
第三は、事業者・事業者団体に対して、法律により、国等の有害環境対策に協力する責務を負わせ、協定・規約の締結・設定努力を義務づけ、総務庁長官等への協定等の届け出まで課すとともに、その要旨も公表するなど、表現活動に重大な規制を加えていることである。
第四に、総務庁長官・知事に対しては、商品・役務の供給方法等につき事業者に行政指導を行う権限とともに、一定の場合には必要な措置を勧告し、これに従わない場合にはその事実を公表する権限も付与されるなど、強力な言論規制措置が導入されていることである。
第五に、有害環境の定義に、青少年の性・暴力に関する「価値観の形成に悪影響を及ぼ」す社会環境も含めるなど、規制の範囲をあいまい広範に設定するとともに、総務庁長官等の勧告権限が発動される要件も、性的・暴力的な逸脱行為を「誘発」「助長」する「おそれ」がある場合や粗暴・残虐な「性向を植え付け」るおそれがある場合、「不良行為」を誘発・助長する場合などと、きわめてあいまい広漠とした文言で定めていることである。そのうえ、勧告権限の範囲も、商品・役務の「供給方法等」について「必要な措置」をとるべきこととし、無限定であることである。
第六は、勧告・公表の権限の行使につき、青少年条例にみられるような審議会への諮問などの手続きを設けず、また措置への異議・苦情などの救済システムも用意していないなど、適正な手続きが軽視され、行政意思のストレートな貫徹が図られていることである。基本方針の策定が法律ではなく閣議決定によるとされていることや、法律の実施に必要な事項が広く政令に委任されていることにも、こうした行政優位思想が現れている。
最後に、苦情処理や有害環境の調査などの重要な権限をもつ機関(青少年有害環境対策センター)が総務庁長官の指定という形で国の関与の下で設置され、表現規制を含む広範な活動にあたることになっている点である。
これらの提案はいずれも情報受領の自由を含む表現の自由や報道の自由を著しく侵害する危険があることを私たちは憂慮せざるをえない。特に、思想や価値観とも関わる表現や報道の領域で、純粋の自主規制を越えて、法律により事業者が青少年保護の「国策」への協力責務を課され、協定・規約の締結・設定努力やその届け出などが求められたり、官庁に広く行政指導の行使が認められ、とりわけあいまい漠然とした要件で広範無限定な措置の勧告や違反の公表などの強大な権限まで与えられていることについては、憲法上重大な疑義があると言わなければならない。
そのほかにも、法案は、今日の青少年の健全な育成への阻害要因をメディア等が提供する情報に直結させて求めているかのようであるが、メディアと青少年の問題行動との関係についての実証的な検証・検討抜きにこのような短絡的な見方に基づいて規制措置を講じようとする姿勢には疑問が残るし、青少年をもっぱら保護の対象としてだけ捉え、「権利の主体」としてその情報受領の自由を含む表現の自由の享受に配慮を加えるという視点がまったく見られない点にも、異論をたしはさまざるをえない。
これまでも青少年の保護・育成のために、メディアの各分野で自主規制措置を含むさまざまな自主努力が重ねられてきた一方で、青少年条例による法規制も加えられてきた。青少年条例に対しては表現の自由の観点から疑問や批判が少なからず指摘されてもきた。今回の新たら立法提案は、これまでの自主努力の貴重な実践をないがしろにするだけでなく、法規制がもたらす危険と弊害をさらに広める懸念を生む。全体として従来の自主努力が万全であるとは言いがたく、青少年の保護・育成の取り組みをどう充実強化していくかは、メディアを含め、私たちの社会が正面から受けとめるべき課題であることは確かである。しかしながら、表現や報道への規律は、その自由を最大限尊重するという観点から、出来る限り国家の介入を退け、あくまでも市民参加によるメディアの自主・自律に委ねるべきであると、私たちは考える。
以上から、私たちは、表現の自由を脅かす今回の法案に反対し、法案を国会に上程しないよう強く求めるとともに、メディアとその関係団体は今回の法案に示される表現の自由の危機的事態を深刻に受けとめ、青少年の保護・育成のために全力を傾けて取り組むことを切望するものである。
表現の自由を脅かす「青少年有害環境対策基本法案(素案)」に反対する緊急アピール
参議院の自民党は、5月11日、青少年の健全育成を目的とした「青少年有害環境対策基本法案(素案)」を取りまとめ、議員立法として国会へ提出しようとしている。この法案(素案)は、先に(4月21日)「青少年有害環境対策法案(素案骨子)」として成案化されたものに一定の修正を施したものであるが、表現の自由の根幹を脅かす重大な内容を含んでいる。
法案は、「近年の我が国社会における急激な情報化の進展、過度の商業的風潮のまん延等により、青少年有害環境のもたらす弊害が深刻化し、かつ増大している」などとして(第一3)、有害環境からの青少年の保護を図る諸施策(青少年有害環境対策)を提案している。ここで保護の対象となっている「青少年」とは18歳未満の者であり、対策が講じられる青少年有害環境とは、「青少年の性若しくは暴力に関する価値観の形成に悪影響を及ぼし、又は性的な逸脱行為、暴力的な逸脱行為若しくは残虐な行為を誘発し、若しくは助長する等青少年の健全な育成を阻害するおそれのある社会環境」とされる(第一2)。 法案はまず、国、地方公共団体、保護者、国民にそれぞれ青少年有害環境から青少年を保護する責務を課しているが、事業者も「その提供する商品又は役務について、青少年の健全な育成を妨げることがないよう配慮する等必要な措置を自主的に講じるとともに、国及び地方公共団体が実施する青少年有害環境対策に協力する責務」があるとされている(第一4)。
これを踏まえて法案が定める有害環境対策措置とは、具体的には概略次のようなものである。
(1)青少年有害環境からの青少年の保護に関する「基本方針」の策定。これは、内閣総理大臣が案を作成し、閣議決定が求められる(第二)。
(2)強調月間の設定、行政によるボランティア活動への支援や、取組への財政措置などを含む、国等の関係機関と国民各層の協力・連携の下に推進される「国民的な広がりをもった一体的な」青少年有害環境対策の取組(第三)。
(3)事業者等による青少年有害環境の適正化。ここでは、事業者・事業者団体に対し、その商品・役務の提供に関し、「青少年の心身の発達の程度に応じた供給方法その他の青少年の健全な育成を阻害」しないために遵守すべき基準についての協定・規約の締結・設定に努めること、および協定・規約を総務庁長官又は知事に届け出ることを求めるとともに、その要旨が総務庁長官等により公表されることが定められている。また、総務庁長官等が事業者等に対し、青少年有害環境からの青少年の保護のため、事業者の供給する商品・役務の供給方法等について必要な指導・助言を行う権限も付与している(第四1?3)。
(4)総務庁長官・知事による勧告・公表。ここでは、総務庁長官・知事は、供給する商品・役務が次の???のいずれかに該当すると認めるときは、事業者等に対し、「その供給方法等について必要な措置をとるべきことを勧告することができ」、「正当な理由なくこれに従わないときは、その旨を公表できる」とされる。?「青少年の性的な感情を著しく刺激し、又は性的な逸脱行為を誘発し、若しくは助長するおそれがある場合」、?「青少年に粗暴又は残虐な性向を植え付け、又は暴力的な逸脱行為若しくは残虐な行為を誘発し、若しくは助長するおそれがある場合」、?「その他青少年の不良行為を誘発し、又は助長する等の青少年の健全な育成を著しく阻害するおそれがある場合」(第四4)。
(5)青少年有害環境に関する苦情の処理や青少年の健全育成を阻害するおそれのある商品・役務の供給状況等についての調査などを含む有害環境対策に関する事業を行う「青少年有害環境対策センター」の設置。これは、申し出た公益法人の中から総務庁長官が全国で一つを指定して決められる(第五)。
(6)その他、?国と地方公共団体との連携協力と、?法律実施に必要な事項の「政令」への委任(第六)。
私たちは、青少年の保護・育成の問題がマスメディアを含め私たちの社会の重要な課題であると認識しているが、上記のような法案提出の動きには重大な懸念を表明せざるをえない。
まずはじめに、私たちは今回の法案提示の仕方そのものに疑義を呈しておきたい。「有害環境」からの青少年保護の問題は、表現の自由や報道の自由という憲法上の権利に関わる重要テーマである。このことを考えると、強力な規制措置を含む法案を、十分な社会的議論もせずに、いきなり国会への上程を図る今回の乱暴なやり方は、きわめて不適切である。メディアや市民団体を含む各層の間で議論を尽くし、合意形成に努めることが肝要であり、数の力で法案成立を強行するなどということがあってはならないと私たちは考える。
内容の点でも、法案にはあまりにも多くの問題があると言わなければならない。法案は、言論や出版などの表現活動にとどまらず、「青少年有害環境」という広範な概念を設定し、青少年に影響を及ぼす商品や役務の提供など人々の諸活動に広く規制の網をかけようとするもので、価値観や道徳を含む市民生活全般への国家の過剰な介入を容認し、自由な市民の活動を不当に制限する危険がある。なかでも、最も深刻なのは、青少年保護を名目に、表現・報道の自由や情報受領の自由への公権力の過剰な規制・介入が図られていることである。このことは、法案の次のような点に窺える。
第一に、この分野では、従来も青少年条例などにより一定の規制が加えられてきたが、今回はこうした地方レベルの規制を法律の制定により一気に国次元の規制へと押し上げ、国家の表現規制を拡大したことである。また、新立法は多種多様な各地の青少年条例に統一的な指針を提供する「基本法」の役割を担うことにもなろう。
次に、規制対象の拡大である。この点では、青少年条例でカバーされていない放送メディアやインターネットも含む供給される一切の「商品・役務」に規制が広げられるとともに、規制される行為が青少年への販売・頒布などの限定を受けていないため、規制のいかんによっては、青少年だけでなく成年者の情報受領の自由にも規制が及ぶ危険があることである。
第三は、事業者・事業者団体に対して、法律により、国等の有害環境対策に協力する責務を負わせ、協定・規約の締結・設定努力を義務づけ、総務庁長官等への協定等の届け出まで課すとともに、その要旨も公表するなど、表現活動に重大な規制を加えていることである。
第四に、総務庁長官・知事に対しては、商品・役務の供給方法等につき事業者に行政指導を行う権限とともに、一定の場合には必要な措置を勧告し、これに従わない場合にはその事実を公表する権限も付与されるなど、強力な言論規制措置が導入されていることである。
第五に、有害環境の定義に、青少年の性・暴力に関する「価値観の形成に悪影響を及ぼ」す社会環境も含めるなど、規制の範囲をあいまい広範に設定するとともに、総務庁長官等の勧告権限が発動される要件も、性的・暴力的な逸脱行為を「誘発」「助長」する「おそれ」がある場合や粗暴・残虐な「性向を植え付け」るおそれがある場合、「不良行為」を誘発・助長する場合などと、きわめてあいまい広漠とした文言で定めていることである。そのうえ、勧告権限の範囲も、商品・役務の「供給方法等」について「必要な措置」をとるべきこととし、無限定であることである。
第六は、勧告・公表の権限の行使につき、青少年条例にみられるような審議会への諮問などの手続きを設けず、また措置への異議・苦情などの救済システムも用意していないなど、適正な手続きが軽視され、行政意思のストレートな貫徹が図られていることである。基本方針の策定が法律ではなく閣議決定によるとされていることや、法律の実施に必要な事項が広く政令に委任されていることにも、こうした行政優位思想が現れている。
最後に、苦情処理や有害環境の調査などの重要な権限をもつ機関(青少年有害環境対策センター)が総務庁長官の指定という形で国の関与の下で設置され、表現規制を含む広範な活動にあたることになっている点である。
これらの提案はいずれも情報受領の自由を含む表現の自由や報道の自由を著しく侵害する危険があることを私たちは憂慮せざるをえない。特に、思想や価値観とも関わる表現や報道の領域で、純粋の自主規制を越えて、法律により事業者が青少年保護の「国策」への協力責務を課され、協定・規約の締結・設定努力やその届け出などが求められたり、官庁に広く行政指導の行使が認められ、とりわけあいまい漠然とした要件で広範無限定な措置の勧告や違反の公表などの強大な権限まで与えられていることについては、憲法上重大な疑義があると言わなければならない。
そのほかにも、法案は、今日の青少年の健全な育成への阻害要因をメディア等が提供する情報に直結させて求めているかのようであるが、メディアと青少年の問題行動との関係についての実証的な検証・検討抜きにこのような短絡的な見方に基づいて規制措置を講じようとする姿勢には疑問が残るし、青少年をもっぱら保護の対象としてだけ捉え、「権利の主体」としてその情報受領の自由を含む表現の自由の享受に配慮を加えるという視点がまったく見られない点にも、異論をたしはさまざるをえない。
これまでも青少年の保護・育成のために、メディアの各分野で自主規制措置を含むさまざまな自主努力が重ねられてきた一方で、青少年条例による法規制も加えられてきた。青少年条例に対しては表現の自由の観点から疑問や批判が少なからず指摘されてもきた。今回の新たら立法提案は、これまでの自主努力の貴重な実践をないがしろにするだけでなく、法規制がもたらす危険と弊害をさらに広める懸念を生む。全体として従来の自主努力が万全であるとは言いがたく、青少年の保護・育成の取り組みをどう充実強化していくかは、メディアを含め、私たちの社会が正面から受けとめるべき課題であることは確かである。しかしながら、表現や報道への規律は、その自由を最大限尊重するという観点から、出来る限り国家の介入を退け、あくまでも市民参加によるメディアの自主・自律に委ねるべきであると、私たちは考える。
以上から、私たちは、表現の自由を脅かす今回の法案に反対し、法案を国会に上程しないよう強く求めるとともに、メディアとその関係団体は今回の法案に示される表現の自由の危機的事態を深刻に受けとめ、青少年の保護・育成のために全力を傾けて取り組むことを切望するものである。