声明・アピール
豊かな子ども番組を! メディア総研7つの提言
1999年06月15日
メディア総合研究所
メディア総合研究所
メディア総合研究所は、テレビと子どもに関して7つの提言をする。
私たちがとくに留意したのは、「青少年と放送」をめぐって提起されているさまざまな課題について、“どうすれば子どもたちのために豊かな放送番組をつくりだせるか”であった。そこにこそ市民の熱い期待があると思うからである。
1 良質の子ども番組のために、放送収入の0.1%を「子ども番組」基金に
視聴率による評価がそのまま放送局の売り上げに直結するいまの民間放送の営業システムのもとにおいては、個々の放送事業者の努力に委ねることで、子ども向け番組の充実が飛躍的に図られるとは考えにくい。
放送事業者は総収入の0.1%を「子ども番組」基金として全体でプールし、これを活用して子ども向け番組の研究・開発や制作・配給、番組表彰などを行うシステムをつくりあげるべきである。
子ども番組の制作と放送を視野に入れた組織としては、現在、民放32社が参加する「民間放送教育協会」(民教協)がある。その経験と実績を生かしながら、全放送事業者が参加する「子ども番組」基金を新設し、子ども番組の総合的推進機関として発展させていくべきである。
2 メディア・リテラシーの推進に全力を
メディア・リテラシーとは「メディアを批判的に読み解く能力の獲得を目指す」ことであって、青少年と放送に関する調査研究会の報告書にあるように、メディアが伝える内容を「正しく理解する能力を身につけること」ではない。したがって、メディア・リテラシーは学校教育においてすすめられる必要があるだけでなく、地域社会においても生涯教育のテーマとして幅広くとりくむ必要がある。また、その推進にあたっては、研究者、学校関係者、市民グループとともに、メディア関係者の参加が重要な意味をもっている。
放送事業者の間には、「メディア・リテラシーは学校と地域社会の問題」とする傾向がつよいが、放送(メディア)関係者の果たすべき役割を自覚し、とりわけ教育関係者との交流・相互研修の場を通じて自主的に努力する必要がある。メディア・リテラシーの推進が放送事業者自身を鍛えることになることも忘れてはならない。
3 第三者機関・オンブズマン制度の導入を
青少年と放送の問題を十分に扱うことのできる行政から独立した第三者機関を創設すべきである。あわせて、各放送局内に設置しながらも視聴者・市民の側に立って働くオンブズマン制度をそれぞれの放送事業者が導入すべきである。
また、存在意義が薄れている各放送局の番組審議機関の見なおしも検討すべきである。放送法によって各放送事業者単位で設置されている現在の番組審議機関を、同一エリアの放送事業者が共同で設置するより自立した「地域番組審議機関」に改組し、視聴者・市民にとっても透明性の高い組織にすべきであると考える。
4 放送時間帯の配慮
放送事業者は、自らの番組基準にのっとり、青少年に不適切と自らが判断する番組については、その放送時間帯について配慮する必要がある。どのような配慮を行うかについては、それぞれの放送事業者で議論して決定すべきであるが、朝から夜10時ごろまでは児童・幼児の視聴機会も高いことを考慮し、暴力表現・性表現については細心の注意をはらうことが求められる。
それぞれの放送事業者が決定した「時間帯配慮基準」については、放送や新聞、雑誌さらにはホームページに掲載するなどして周知に努める必要がある。
5 タバコCM・アルコール飲料CMの扱いの再検討を
タバコやアルコール飲料の放送での扱いについては、民放連放送基準で「(番組では)未成年者の喫煙・飲酒を肯定するような扱いはしない」と定めているが、CMの扱いについては、未成年者の喫煙・飲酒が法律で禁止されているにもかかわらず、それぞれの業界の自主規制にまかせるだけで、放送業界としては対応策をとることを控えてきた。タバコの銘柄CMがテレビから消えたのも、タバコ業界の自主規制によるものである。しかし、タバコCMの全廃とアルコール飲料CMの規制は世界の趨勢であり、放送業界の積極的な対応が強く求められている。
青少年に喫煙・飲酒を推奨するような、あるいは動機づけとなるようなCMは好ましくない。WHOも人体に有害と認めているタバコのCMは全廃すること。アルコール飲料の銘柄CMについては、当面、午前6時から午後10時までは放送しないこと。
6 放送活動の基本に番組基準・放送倫理基本綱領を
放送事業者は放送法により「番組基準」の制定・公開を義務付けられている。また民放連は自主的に民放共通の自主的な倫理基準(「民放連放送基準」)を民放発足時に制定し、その後これまでに、社会状況の変化に対応して10回を超える改定を行ってきた。
また、NHKと民放連は1996年に「放送倫理基本綱領」を共同で制定している。この綱領には、「放送は、いまや国民にとって最も身近なメディアであり、その社会的影響力はきわめて大きい。われわれは、このことを自覚し、放送が国民生活、とりわけ児童・青少年および家庭に与える影響を考慮して、新しい世代の育成に貢献するとともに、社会生活に役立つ情報と健全な娯楽を提供し、国民の生活を豊かにするようつとめる」との文言がある。
番組基準および放送倫理基本綱領は放送事業者として、放送に携わる者の基本的な放送姿勢・倫理基準を放送局の内外に示すことで放送活動の責任の所在を明らかにするものである。したがって、放送に携わるすべての関係者にそのことが理解されるよう周知徹底を図るとともに、これを広く市民に公開し、市民とメディアの対話を促進する必要がある。また市民からの苦情や意見に対しては、番組基準や放送倫理基本綱領に照らしてその是非が説明されなければならない。「青少年と放送」をめぐる問題においても、そのような説明責任を果たすことが強く求められる。
7 放送事業者は市民への情報公開を拡充せよ
放送事業者は免許事業としての公共性と報道機関としての位置と役割を自覚し、経営情報をはじめ、行政との関係や市民からの苦情への対応に至るまで、積極的に情報公開することを求められている。
(1) 「青少年と放送」に関わる議論について、NHKおよび民放連は、専門家会合ではそれぞれの考え方を表明しているが、視聴者・市民に対しては、それぞれのホームページに同会合の議事録要旨を掲載しているにすぎない。まして個々の放送事業者の意見は全くといっていいほど公表されていない。放送事業者のこの問題に関するそれぞれの認識と具体的な方策を表明すべきであり、直接に自己検証番組などを通じて視聴者・市民に積極的に知らせる努力をすべきである。
(2) 従来の番組宣伝とは別に、子ども向け推奨番組の紹介や親に注意を喚起すべき番組の事前情報などを、放送や新聞、テレビガイド雑誌、さらには自社のホームページなどを活用して視聴者・市民に伝えるよう、個々の事業者は早急にその方策を検討し、実施に移すべきである。事前情報のあり方については、それぞれの放送事業者の判断で決定されるべきであると考える。
これまでの経緯
青少年と放送をめぐる諸問題について、郵政省は「多チャンネル時代における視聴者と放送に関する懇談会」の最終報告書(1996年12月)で、さまざまな検討課題をまえに、青少年保護の観点にたった放送事業者の自律を促すとともに、米国で実施が決まったVチップ制度などの具体的な規制的措置を例示し、諸外国の運用動向や評価を踏まえて、日本への導入を判断すべきとした。
この報告書に基づき1998年5月、郵政省は「視聴者政策の在り方等について検討を行い、もって放送分野における視聴者政策の推進を図ること」を目的とする「青少年と放送に関する調査研究会」を設置した。同研究会は1998年12月に、(1)青少年向けの放送番組の充実 (2)メディア・リテラシーの向上 (3)青少年と放送に関する調査等の推進 (4)第三者機関等の活用 (5)放送時間帯の配慮 (6)番組に関する情報提供の充実 (7)Vチップ (8)今後の進め方--の8項目について提言を行った。なかでも、(5)と(6)については、放送事業者の自主的な対応を期待し、(7)のVチップについては、「今後の青少年対応策についての実施状況、またデジタル技術の動向等を十分に踏まえ、引き続き検討を行うことが適当である」とした。そして(8)において、各提言の細目について6ヵ月以内を目途に具体化することと明示した。
この提言を受け、郵政省、NHK、民放連の三者は共同でただちに「青少年と放送に関する専門家会合」を設置し、1999年1月に第1回の会合を開いた。この専門家会合の開催には多くの疑問があるが、ここでは次の三点を挙げる。
第一に、放送内容に関わる具体的検討に郵政省の放送政策課長がメンバーとして加わっていること。先の提言で、放送事業者の自主的対応が求められていた事項の検討に行政担当者の同席を是認する放送事業者側(NHK、民放連)の対応は、先の報告書の作成に加わっていた者として、きわめて不見識であり、視聴者を軽視した行政追従姿勢である。第二に、こうした放送の自由に関わる事項の検討をわずか「6ヵ月」と期限を決めて「取りまとめる」ことは拙速である。第三に、先の調査研究会は傍聴することが許されていたが、今回は郵政省の担当者が委員として入った会合であるにもかかわらず、「非公開」の開催となった点である。
メディア総合研究所は、この問題に関して、これまでに「Vチップおよび番組格付けの導入についてのメディア総合研究所の見解」(1998年10月14日)を発表した。その見解では、市民不在の懇談会行政、番組格付けの問題点、青少年の視聴する権利との関係、Vチップの実効性、諸外国の経験の検証、などの面からVチップ等の導入には「慎重かつ広範な議論が必要である」と指摘した。さらに、この問題について沈黙しつづける放送事業者の姿勢を批判すると同時に、放送法が規定する番組基準や放送事業者が自主的に定めた放送倫理基本綱領などの遵守とその理念の実行が重要であると指摘した。
1 良質の子ども番組のために、放送収入の0.1%を「子ども番組」基金に
視聴率による評価がそのまま放送局の売り上げに直結するいまの民間放送の営業システムのもとにおいては、個々の放送事業者の努力に委ねることで、子ども向け番組の充実が飛躍的に図られるとは考えにくい。
放送事業者は総収入の0.1%を「子ども番組」基金として全体でプールし、これを活用して子ども向け番組の研究・開発や制作・配給、番組表彰などを行うシステムをつくりあげるべきである。
子ども番組の制作と放送を視野に入れた組織としては、現在、民放32社が参加する「民間放送教育協会」(民教協)がある。その経験と実績を生かしながら、全放送事業者が参加する「子ども番組」基金を新設し、子ども番組の総合的推進機関として発展させていくべきである。
2 メディア・リテラシーの推進に全力を
メディア・リテラシーとは「メディアを批判的に読み解く能力の獲得を目指す」ことであって、青少年と放送に関する調査研究会の報告書にあるように、メディアが伝える内容を「正しく理解する能力を身につけること」ではない。したがって、メディア・リテラシーは学校教育においてすすめられる必要があるだけでなく、地域社会においても生涯教育のテーマとして幅広くとりくむ必要がある。また、その推進にあたっては、研究者、学校関係者、市民グループとともに、メディア関係者の参加が重要な意味をもっている。
放送事業者の間には、「メディア・リテラシーは学校と地域社会の問題」とする傾向がつよいが、放送(メディア)関係者の果たすべき役割を自覚し、とりわけ教育関係者との交流・相互研修の場を通じて自主的に努力する必要がある。メディア・リテラシーの推進が放送事業者自身を鍛えることになることも忘れてはならない。
3 第三者機関・オンブズマン制度の導入を
青少年と放送の問題を十分に扱うことのできる行政から独立した第三者機関を創設すべきである。あわせて、各放送局内に設置しながらも視聴者・市民の側に立って働くオンブズマン制度をそれぞれの放送事業者が導入すべきである。
また、存在意義が薄れている各放送局の番組審議機関の見なおしも検討すべきである。放送法によって各放送事業者単位で設置されている現在の番組審議機関を、同一エリアの放送事業者が共同で設置するより自立した「地域番組審議機関」に改組し、視聴者・市民にとっても透明性の高い組織にすべきであると考える。
4 放送時間帯の配慮
放送事業者は、自らの番組基準にのっとり、青少年に不適切と自らが判断する番組については、その放送時間帯について配慮する必要がある。どのような配慮を行うかについては、それぞれの放送事業者で議論して決定すべきであるが、朝から夜10時ごろまでは児童・幼児の視聴機会も高いことを考慮し、暴力表現・性表現については細心の注意をはらうことが求められる。
それぞれの放送事業者が決定した「時間帯配慮基準」については、放送や新聞、雑誌さらにはホームページに掲載するなどして周知に努める必要がある。
5 タバコCM・アルコール飲料CMの扱いの再検討を
タバコやアルコール飲料の放送での扱いについては、民放連放送基準で「(番組では)未成年者の喫煙・飲酒を肯定するような扱いはしない」と定めているが、CMの扱いについては、未成年者の喫煙・飲酒が法律で禁止されているにもかかわらず、それぞれの業界の自主規制にまかせるだけで、放送業界としては対応策をとることを控えてきた。タバコの銘柄CMがテレビから消えたのも、タバコ業界の自主規制によるものである。しかし、タバコCMの全廃とアルコール飲料CMの規制は世界の趨勢であり、放送業界の積極的な対応が強く求められている。
青少年に喫煙・飲酒を推奨するような、あるいは動機づけとなるようなCMは好ましくない。WHOも人体に有害と認めているタバコのCMは全廃すること。アルコール飲料の銘柄CMについては、当面、午前6時から午後10時までは放送しないこと。
6 放送活動の基本に番組基準・放送倫理基本綱領を
放送事業者は放送法により「番組基準」の制定・公開を義務付けられている。また民放連は自主的に民放共通の自主的な倫理基準(「民放連放送基準」)を民放発足時に制定し、その後これまでに、社会状況の変化に対応して10回を超える改定を行ってきた。
また、NHKと民放連は1996年に「放送倫理基本綱領」を共同で制定している。この綱領には、「放送は、いまや国民にとって最も身近なメディアであり、その社会的影響力はきわめて大きい。われわれは、このことを自覚し、放送が国民生活、とりわけ児童・青少年および家庭に与える影響を考慮して、新しい世代の育成に貢献するとともに、社会生活に役立つ情報と健全な娯楽を提供し、国民の生活を豊かにするようつとめる」との文言がある。
番組基準および放送倫理基本綱領は放送事業者として、放送に携わる者の基本的な放送姿勢・倫理基準を放送局の内外に示すことで放送活動の責任の所在を明らかにするものである。したがって、放送に携わるすべての関係者にそのことが理解されるよう周知徹底を図るとともに、これを広く市民に公開し、市民とメディアの対話を促進する必要がある。また市民からの苦情や意見に対しては、番組基準や放送倫理基本綱領に照らしてその是非が説明されなければならない。「青少年と放送」をめぐる問題においても、そのような説明責任を果たすことが強く求められる。
7 放送事業者は市民への情報公開を拡充せよ
放送事業者は免許事業としての公共性と報道機関としての位置と役割を自覚し、経営情報をはじめ、行政との関係や市民からの苦情への対応に至るまで、積極的に情報公開することを求められている。
(1) 「青少年と放送」に関わる議論について、NHKおよび民放連は、専門家会合ではそれぞれの考え方を表明しているが、視聴者・市民に対しては、それぞれのホームページに同会合の議事録要旨を掲載しているにすぎない。まして個々の放送事業者の意見は全くといっていいほど公表されていない。放送事業者のこの問題に関するそれぞれの認識と具体的な方策を表明すべきであり、直接に自己検証番組などを通じて視聴者・市民に積極的に知らせる努力をすべきである。
(2) 従来の番組宣伝とは別に、子ども向け推奨番組の紹介や親に注意を喚起すべき番組の事前情報などを、放送や新聞、テレビガイド雑誌、さらには自社のホームページなどを活用して視聴者・市民に伝えるよう、個々の事業者は早急にその方策を検討し、実施に移すべきである。事前情報のあり方については、それぞれの放送事業者の判断で決定されるべきであると考える。
これまでの経緯
青少年と放送をめぐる諸問題について、郵政省は「多チャンネル時代における視聴者と放送に関する懇談会」の最終報告書(1996年12月)で、さまざまな検討課題をまえに、青少年保護の観点にたった放送事業者の自律を促すとともに、米国で実施が決まったVチップ制度などの具体的な規制的措置を例示し、諸外国の運用動向や評価を踏まえて、日本への導入を判断すべきとした。
この報告書に基づき1998年5月、郵政省は「視聴者政策の在り方等について検討を行い、もって放送分野における視聴者政策の推進を図ること」を目的とする「青少年と放送に関する調査研究会」を設置した。同研究会は1998年12月に、(1)青少年向けの放送番組の充実 (2)メディア・リテラシーの向上 (3)青少年と放送に関する調査等の推進 (4)第三者機関等の活用 (5)放送時間帯の配慮 (6)番組に関する情報提供の充実 (7)Vチップ (8)今後の進め方--の8項目について提言を行った。なかでも、(5)と(6)については、放送事業者の自主的な対応を期待し、(7)のVチップについては、「今後の青少年対応策についての実施状況、またデジタル技術の動向等を十分に踏まえ、引き続き検討を行うことが適当である」とした。そして(8)において、各提言の細目について6ヵ月以内を目途に具体化することと明示した。
この提言を受け、郵政省、NHK、民放連の三者は共同でただちに「青少年と放送に関する専門家会合」を設置し、1999年1月に第1回の会合を開いた。この専門家会合の開催には多くの疑問があるが、ここでは次の三点を挙げる。
第一に、放送内容に関わる具体的検討に郵政省の放送政策課長がメンバーとして加わっていること。先の提言で、放送事業者の自主的対応が求められていた事項の検討に行政担当者の同席を是認する放送事業者側(NHK、民放連)の対応は、先の報告書の作成に加わっていた者として、きわめて不見識であり、視聴者を軽視した行政追従姿勢である。第二に、こうした放送の自由に関わる事項の検討をわずか「6ヵ月」と期限を決めて「取りまとめる」ことは拙速である。第三に、先の調査研究会は傍聴することが許されていたが、今回は郵政省の担当者が委員として入った会合であるにもかかわらず、「非公開」の開催となった点である。
メディア総合研究所は、この問題に関して、これまでに「Vチップおよび番組格付けの導入についてのメディア総合研究所の見解」(1998年10月14日)を発表した。その見解では、市民不在の懇談会行政、番組格付けの問題点、青少年の視聴する権利との関係、Vチップの実効性、諸外国の経験の検証、などの面からVチップ等の導入には「慎重かつ広範な議論が必要である」と指摘した。さらに、この問題について沈黙しつづける放送事業者の姿勢を批判すると同時に、放送法が規定する番組基準や放送事業者が自主的に定めた放送倫理基本綱領などの遵守とその理念の実行が重要であると指摘した。